計画敷地:東京都渋谷区
用 途:専用住宅
構造規模:鉄骨造 地上2階建・RC造 地下1階
敷地面積:323.71 ㎡
建築面積:182.82 ㎡
延床面積:388.20 ㎡
水音と暮らす
都内随一の高級住宅街である松濤は、江戸時代は紀州徳川家の下屋敷として、明治維新後は佐賀藩鍋島家が払い下げを受けて農園とし、関東大震災後は宅地として当主が信用のおける人づてを元に計画的な分譲を行った事により 社会的地位の高い人々が住むという歴史が現在にも引き継がれています。松濤とは、松の梢を渡る風の音が海岸に打ち寄せる海の濤音[SEA_ROAR]の様に聞こえる事をいい、鍋島家が農園に設けた茶湯の釜がたぎる音を例えて命名したとされます。広大な松濤園にあった湧水池の一画は現在の松濤公園として残り、今回の計画敷地もその中に位置していた考えられます。本計画のテーマとなっている水盤と滝は、当時の松濤に流れていた水の音を再び呼び起こす事になるのかもしれません。松濤に隣接する神泉は、不老不死の霊泉として知られていた湧水があったとされます。江戸時代からこの地域には水との関わりを”神聖なもの”あるいは”風情のあるもの”として捉えていたのでしょう。清らかな水を運ぶ伏流水がこの地域の生活と深い関わり合いがあった事が偲ばれます。
空間に水景を取り入れることが命題だった本計画は3層+屋上という建物構成です。半地下のエントランスと連続した応接は主にビジネス上の来客時に使われる事を想定しました。内装には、透明ガラス、フロストガラス、ミラーガラスなど数種類のガラスを使う事により、統一感がある中にも画一化しないしつらえを作ります。床はガラスと呼応する様な、コンクリート磨き加工を採用し、天井の金属色左官と相まって,硬質な印象を与える空間とします。窓の外に広がる滝と水盤、その中から立ち上がる炎といった自然由来の動きある要素の柔らかさとの対比をさらに際立たせる事でしょう。
1階は生活フロアです。エントランスに設置されたガラスの階段を上がった先には、居間が広がります。くつろぎや団らんを求めたエリアとして、B1階のクールな印象とは変わって、暖色系の素材でまとめました。床は茶系の大判タイルとし、TVモニターと暖炉が組合わさった壁面は存在感のある赤茶色の壁としました。開口部の高さを低めに設定する事により、地明かりが入り込む様に光をコントロールした重心の低い落ち着いた空間を目指しました。居間奥側の壁には、ガラスの壁面オブジェの設置を想定してみました。
2階はダイニングキッチンと屋外テラスを組み合わせた、開放的なフロアです。2面をガラスの開口部で構成したダイニングキッチンは都心方向の眺望を十分に活かした間取りとします。3M幅のキッチンカウンターはアイランド形式とし、背面の壁面カウンターと収納により機能性を確保します。10人掛けのダイングテーブル奥には、ガラス床を設け、下階への光の取り入れ口となります。
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