計画敷地:神奈川県横浜市
用 途:専用住宅
構造規模:鉄骨造 地上2階
敷地面積:176.32m2
建築面積:070.38m2
延床面積:105.52m2
丘の我家
なだらかな斜面地の中腹にある今回の計画地は、小さな丘陵が続く、神奈川県の山あいの特徴を汲んでいます。南側の前面道路は西へと下ってゆく幅員4m前後の生活道路です。隣地は東側に擁壁、西側、北側、前面道路の向かい側は、隣家に囲まれているため道路レベルでは良好な眺望は望めませんが、傾斜地の生み出す高低差は街全体に空間の面白さを与えます。都市計画的には建蔽率40%に抑えているため、比較的建物周辺に空間が多く存在し、密集した住宅地と云う印象は受けず、良好な街並が形成されているといえます。敷地周辺を隣接地の住宅、擁壁に囲まれた今回の計画地は、特に周辺環境との整合を計る必要性が高いと考えました。2階建あるいは2mの高さのある擁壁の囲みに対して、敷地中央に母屋を配置する計画は、外部空間を分節してしまい、外部との調和を計りたい内部空間にも良い効果を望めないと考えられます。特に東側の擁壁は1階レベルでは良好な採光を得られず、2階レベルでは駐車場利用者の視線も気になるため、主たる開口部を排しました。これと併せて、母屋を出来るだけ擁壁に寄せる事により、敷地西に大きな外部空間を確保する事ができました。
前面道路には、玄関、2台分の駐車スペースが接続する必要があります。このアプローチ空間は南側敷地境界のほぼ全長に渡り、道路と段差無く接続する事により(垣根等は設けません)前面道路と敷地を併せた、空間の広がりを持つ事ができます。また、2台分の駐車スペースは母屋と2階部分で接続した寝室の下を利用する事により、雨をしのげる並列駐車を可能としました。駐車スペースの奥には中庭を配します。中木、低木、ウッドデッキで構成された中庭は、敷地境界上で壁を設ける事により、今後建て替えが進むであろう周辺環境とは切り離された自然の風景を生み出し、周辺の喧噪から隔離された、緩やかな時間が感じられる事でしょう。
日々の生活における家族の休息地を「家」の中に見いだしたい
都市の喧噪から切り離された、より内省的な「奥性」を感じられる空気感は、敷地内、住居内に
安らぎの空間をもたらすと考えました。この「奥性」には、建築的な造形、空間のボリューム、素材感といった様々要素が複雑に絡みます。開かれたアプローチ部分は住宅街の道路に広がりを持たせると共に、補石を敷き詰められた床面の素材感が敷地と道路面のアスファルトの間に見えない境界を生み出します。前面道路側にほとんど開口を持たない母屋の壁は、左官の白い壁で構成された無垢な固まりとして存在感を希薄にします。唯一の開口となるニッチは玄関への導入部になります。この家の南角のニッチから玄関へと進み母屋内部は北へと続きます。細長い矩形の端から導入とする事により、敷地のほぼ南北の長さを母屋内で確保する事ができました。比較的明るさをおさえた玄関から、廊下を進むと、2層分の開口を持った、明るい吹き抜けを持つLDKに繋がります。このLDKの前面には中庭が広がり、木々の緑が室内にも季節感を与えてくれるでしょう。内部空間は半地下を含めると5種類の階数を持つ、スキップフロアで構成されます。中央に吹抜と階段から成る開放的なコアを設け、この空間を中心にそれぞれの居室が派生していきます。
全ての居室はコアを通して別の居室と接続しているため、どこにいても家族の気配を感じる事が出来ます。それぞれのフロアは時にはソリッドな、時には透けた階段で有機的に繋がり、室内空間に横と縦の広がりを与えます。書斎とリビング、リビングと子供部屋はフロアを変えながらも、空間としての繋がりを緩やかに持たせ一体感を与えると共に、それぞれの個別性も保てるように配慮しました。2.5階レベルでは内部空間に外部テラスを積極的に取り込み、内→外→内という複雑な空間構成を形づくります。南、東面外壁に開口を設けずとも、トップライトの効果により、天空からの光で室内を十分に明るくする事が可能です。夫婦の寝室はLDKのある主屋部分から張り出した計画としています。まるで離れから中庭越しにLDKや子供部屋を眺める事が出来、ここでも内→外→内という関係性を持ち込み、それぞれの居室が適度な距離を保ちながらもひとつに繋がることを願いました。
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