ここまで平屋の魅力を、敷地との関係性を交えて探って来ました。「地に根ざす」という事をイメージした時、何となく平坦な地形を思い浮かべるのではないでしょうか。
ここで,改めて、「平屋の魅力を考える」で述べた優れた点を確認してみましょう。
- 地に根ざした暮らしが臨める
- 水平移動で完結できる(上下移動がない)
- 家族のコミュニケーションが図り易い
- 構造が堅牢になる
- 部屋の大きさに自由度が高い
果たしてこれらは平坦な土地でしか成り立たず、傾斜地では難しいのでしょうか?この中で特に相違点が生まれるのは「地に根ざした暮らしが臨める」といった項目でしょう。敷地が傾斜している事を考えると,建物の外周全てで地面と連続させるのは難しいかもしれません。ワンフロアで日常生活が完結していることからすれば「平屋の暮らしを行っている」と拡大解釈をお許し頂くとの前提で、以下に傾斜地と建物の取合いを簡単な概念図で表します。
A案の傾斜地に平屋を載せるイメージであれば、建物の下(基礎部分)を地面から持ち上げる柱、梁といった構造フレームが必要になります。イラストの建物左側は入口などをイメージしていますが地面との接続を行います。こちら側に関しては、建物と敷地の連続感は生まれる可能性はあります。傾斜の低い側に関しては、建物が地面から浮いている様な状態になるため、使い勝手には制限が加わり、デットスペースになってしまう事も考えられます。
上記は建物と地面の接続が傾斜地の高い側でしたが、これは低い側で行う事も考えられます。B案は、大半が地面の中に埋まる事になるため、半地下といったイメージに近くなってきます。建物の性能上、土と接する部分は木造と云う訳にはいかず(土の中には水分が多く含まれているため、水に強い材料が求められます)多くの場合は鉄筋コンクリート(以下RC)造となります。また、地中に埋める事による土の掘削とその残土処分にもコストが掛かる事になります。
A案、B案のいずれにしても、敷地が傾斜している事により、建物を作る上での何らかのコストアップは避けられない傾向にはあります。平坦な敷地に比べ設計においても立体的な検討事項が増えるため、住宅メーカーさんは敬遠しがちになり、設計事務所の得意分野ともいれるでしょう。この事が、土地の資産価値を下げる事にも繋がっており、土地価格からすると、安価に設定されているケースが多く有ります。建物のコストアップを敷地のコストダウンでカバーすると云うことも考えられるでしょう。
次回は、安価に入手した傾斜地に、ワンフロアの生活空間を設けた過去の実例を取り上げたいと思います。