現在進めている千束の住宅コンペが、間口4Mに満たない狭小敷地の計画になります。計画案を詰めてゆく過程で、様々な狭小住宅をひも解いてみたのですが、その中で、やはり安藤忠雄氏の「住吉の長屋」はどうしても避けて通る事のできない重要な指標であります。傑作の誉れ高いこの住宅は、中庭を内包するコンクリート打ち放しの安藤氏の出世作になるのですが、その魅力は今も衰えていません。実は、この原寸模型がギャラリー間で行われている建築展で展示されているとの事で、早速足を運んでみました。
極限まで切り詰められた空間は、確かにコンパクトなのですが、狭く息苦しいという事はなく、逆に全てのものが自分の手が届く範囲にある居心地の良さを感じる事ができました。これは中庭に開いた開口の効果が高く、庭を挟んで対面した居室も一体の空間と感じられ、内部-外部-内部の連続が奥行きとして感じられます。また、それぞれの空間が持つ幅・奥行・高さのプロポーションが非常に練り上げられている様に感じられました。これは体で建物の大きさをイメージしながら作り上げていったと思うのですが、この設計者としての原点ともいえる空間をイメージする事の大切さを改めて感じました。もちろん、雨の日には傘をさして寝室に行かなければならないといった、不自由さ(?)を内包しているのですが、ここに「自然と共に暮らす」といった価値観を見いだしているお施主さんもやはり素晴らしいですね。確実にここだけに存在するはずの空気が流れているのですから・・・。
舟越桂 夏の邸宅 アールデコ空間と彫刻
東京都庭園美術館での展覧会の最終日(〜2008年9月23日)が間近に迫っていたため、足をのばす事にしました。涼しげなひとかたの中に存在感と強さを持つ、氏の初期の作品を思い浮かべ、ともすれば主張のあるアール・デコの室内空間の意匠に、彫刻が埋もれてしまうのではないかとの期待と不安とを持ちながら、その対峙に接しました。
館内に足を踏み入れた瞬間に、そんな思いは杞憂に終わりました。作品の存在感は圧倒的なのでした。最初に迎え入れてくれる彫刻は、ひとかたをしているもののそれはすでに人間ではなく、両性具有の存在が静かに宙に浮いていました。もともと邸宅であった建物は、天井の高いゆとりをもった空間に、客間、寝室、浴室といった部屋毎に様々な素材を生かした鮮やかな意匠を持ち、当時の財力と職人の技を垣間見せています。現代では異次元空間といえるでしょう。その昭和初期に建てられた建物と共に、あたかも止まった時間の中で遠くを見続けているようにそこに佇んでいるのです。その大きさといい、目線の高さといい、遠くを見据える穏やかな表情にこの館の住人ではないかと錯覚しそうになりました。それぞれの部屋の仕上げと呼応するかの様な古色調に仕上げられた彫刻の差し色の取り合わせも美しく、意匠と衣装をコーディネートしている様な印象を受けます。館内を移動し様々な部屋を巡りながら扉枠を抜ける度に彫刻の配置と光量をコントロールした絶妙なライティングが展開してゆき立体的な箱絵を眺めているかのようでした。ドローイングの世界観と新たに生み出された展示空間に、高い次元でのインスタレーションを感じます。
・・・できれば、入場者の少ない時に訪れたかった。
余韻もさめやらぬまま、美術館を後にし、通りに出た所で、一緒にお仕事をさせて頂いている内原デザイン事務所の目黒さん(弊社がプロジェクト参加しているSONY CITYのライティングを担当されています)と偶然に出会いました。よくよくお話を伺っていると、今回の展示の照明デザインをされたとの事でありました。(なるほど・・)と妙に合点がいき、改めてプロの仕事の完成度の高さを反芻するのであります。