新築

近畿地方の家を東京で設計する

この投稿は建築家31会のブログリレー「ばとろぐ_2017/03/23」を一部加筆したものです。

設計に取り掛かるにあたり、お客様のご希望を伺う事は全ての始まりになります。今回ご縁を頂いた大津のお客様は、自由が丘の模型展でお知り合いになった事は既にお伝え致しました。イベントでは数組の建築家が模型と写真を持ち寄って、どのような仕事を行ってきたかのご説明も行っているのですが、この時に持参した「中庭」のある案件の模型にご興味を持って頂いた事が、直接お声掛けを頂くきっかけとなりました。家づくりを行う上でのご要望は、前々回のバトログ「定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか」で書かせて頂きましたが、建物計画上の主なご希望は以下のとおりでした。

  1. 建物は木造2階建て
  2. 中庭を取り囲む様に部屋を配置したい
  3. 2階にリビング、キッチン、ダイニング、水廻り、寝室を設ける
  4. 1階に和室、子供部屋、車庫(2台駐車)

特に2階には日常的に使う機能をまとめ、上下移動を少なくしたワンフロアでの生活を望まれていました。これらのご要望を頂くのと併せて、実際に敷地を拝見させて頂く機会を持ち、どのように計画に盛込むかを模索する事になります。敷地周辺のフィールドワークは、2013年のバトログ「原風景に想うこと3」でも書かせて頂きましたので、併せてご覧頂けますと幸いです。

敷地は間口がより奥行が深い町屋独特の地形で、現在のお宅は、前面道路に面して建っており、母屋を挟んだ反対側に庭がありました。この庭部分に新居を計画します。ご要望の2台分の車庫(並列駐車)を道路側に設ける事により、建物の間口方向の幅はある程度、定まって来る事になりました。これに中庭、母屋、さらに奥庭を並べてゆき側面にアプローチの通路で繋げる事で、空間構成も町屋をイメージさせるものとなりました。2階は中庭を囲む様にリビング、ダイニングを配し、来客の見込まれるキッチン周りは、道路側に広めのテラスを設け、2面からの採光が望める明るい空間としました。よりプライベート性の高い寝室と水廻りは奥庭に面しています。

  • 所在地:滋賀県大津市
  • 構 造:木造在来工法地上2階
  • 用 途:専用住宅

■大津K-HOUSE=in the Compound= 設計編

00.大津で東京の設計事務所が設計・監理をする-出会う-

01.定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

02.遠隔地で行う家づくり ハウスメーカーと設計事務所の違い

03.近畿地方の家を東京で設計する

04.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法1

05.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法2

■大津K-HOUSE=in the Compound= 現場監理編

00.地鎮祭_大津K-HOUSE=in the Compound=

01.祠ありきの建物位置:縄張り

02.建物を支える地盤を考える

03.基礎工事の工程:掘削工事

04.基礎工事の工程:鉄筋工事

05.基礎工事の工程:打設工事

遠隔地で行う家づくり ハウスメーカー、工務店と設計事務所の違い

この投稿は建築家31会のブログリレー「ばとろぐ_2017/03/22」を一部加筆したものです。

家づくりをスタートされる時に、どこに仕事を依頼するかの選択肢が幾つかある事は皆様も既にご存知かもしれません。我々の様な設計事務所に仕事を依頼する以外にも、ハウスメーカーや工務店、建設会社に設計から依頼される方は多いと思います。

今回のテーマである現在の居住地と施工計画地が離れている場合、上記の選択肢である、ハウスメーカー、工務店、建設会社に仕事を依頼した場合、どのような進み方をするでしょうか。

全国区をカバーする大手ハウスメーカーは、各地に営業所を持ち、設計・施工とも、どの場所、地域においても対応が可能でしょう。例えば、東京で打合せを行い、施工段階では敷地最寄りの施工チームが受け持つ様なイメージになります。間取りや仕様に関しても,メーカー独自のルールが定まっているため、一定水準を保った住宅ができ上がる事は間違いありません。ただし、共通ルールが多い分、選択肢の自由度は制限される事にはなります。

工務店、建設会社の場合は、地域に根ざした仕事を行っている事が多いため、計画敷地へ工事に出向く事が出来る距離感が重要になります。打合せにも、ある程度の移動条件が加わる可能性があります。また、設計より施工を重視する傾向にあります。設計段階での打合せは移動距離を伴う可能性が高く、その心構えが必要になるでしょう。

今回の大津での計画では、打合せの窓口を担って下さった旦那様に合わせて、東京で設計段階での物事が決まってゆきました。設計事務所ならではの提案力とお施主様のご希望を柔軟に、多く盛込む事ができるという事は大きなメリットといえるでしょう。設計事務所は基本的には施工ができないため、工事に関しては地元の施工者にお願いする事になります。工事段階においては、お施主様の代わりに専門的な目で施工会社の仕事ぶりを確認、指導する事ができ、より良い住宅を作る一助になります。

ただ、この様に設計事務所に依頼する事はメリットばかりではありません。まず、契約に関しては、設計契約と工事契約をそれぞれ結んで頂く必要があり、ワンストップで全ての契約が完了する設計・施工のハウスメーカーや工務店より手間が掛かります。下図は当初の工程表になります。流れとしては、設計契約を結んだ後に、設計を進め、図面が揃った段階で、施工者に見積を行い、金額が折り合った後に、工事契約となります。設計段階では、目標予算を元に進めて行きますが、施工者に見積を取る段階まで、正確な金額が判らないと行った事になります。この辺りのご予算と設計内容の齟齬を防ぐため、我々は設計途中に概算見積りを取る事を行います。下図の赤文字の通り、概算見積りを行った後に、設計内容の見直しを行ってから実施設計を行い、本見積りへと進みました。

今回のケースでは慎重に事を進めたのですが、実際には知り合いが殆ど不在の関西での初仕事であった事もあり、少なからず困難が待ち受けておりました・・・。

■大津K-HOUSE=in the Compound= 設計編

00.大津で東京の設計事務所が設計・監理をする-出会う-

01.定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

02.遠隔地で行う家づくり ハウスメーカーと設計事務所の違い

03.近畿地方の家を東京で設計する

04.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法1

05.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法2

■大津K-HOUSE=in the Compound= 現場監理編

00.地鎮祭_大津K-HOUSE=in the Compound=

01.祠ありきの建物位置:縄張り

02.建物を支える地盤を考える

03.基礎工事の工程:掘削工事

04.基礎工事の工程:鉄筋工事

05.基礎工事の工程:打設工事

定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

この投稿は建築家31会のブログリレー「ばとろぐ_2017/03/21」を一部加筆したものです。

ブログを書いている本日は2017年の3月ですので、お施主様とお会いしてから既に4年近くが経とうとしています。実は紆余曲折がありまして、来週末に地鎮祭を行うという、まさに現在進行形のお宅になります。前回シリーズのバトログでご紹介した[PLUS自由が丘]も「建築家サロンin自由が丘」の会場のご近隣にお住まいになられているお客様からご縁を頂きましたが、今回ご紹介する[K-HOUSE=in the Compound=]も、ご自宅から駅までの通りすがりに、たまたま模型展をご覧になられた事から始まっています。

概ね40年前にご自宅を大津に建てられ、現在は旦那様が単身赴任で東京にお住まいになり、週末に帰省されております。数年後に控えた定年退職と、お二人のお嬢様がご結婚を機にご自宅から出られるなど、生活を取り巻く環境の変化に合わせて、住まい方を見なおすタイミングが訪れていました。お話しを頂いた当初は現在のお住まいにフルリフォームを掛けるか、新たに一戸建てを建てるかで比較検討をされておりました。その中で実現されたいポイントは概ね以下になります。

1. 部屋数や収納量などをこれからの生活スタイルに合わせたい

2. お料理の好きな奥様が快適に使えるキッチンをつくりたい(お料理教室も行いたい)

3. 断熱性能を上げたい

4. 特に玄関を明るくしたい

5. 工事金額は抑えたい

上記のご希望に対して、フルリフォームと新築のメリット・デメリットを比較し、最終的には以下のポイントで新築される事を選択されました。

1. →リビング、ダイニング、キッチンを一体にした、広めの一室をご希望になり、構造フレームの制約のあるリフォームでは理想的な空間を得るのが難しかった。生活を主に2階フロアで完結したいといったご要望もあり水廻りを現在の1階から移動する必要があった。

2. →収納量を増やすと共に、お料理教室での使用を見越した対面式キッチンを計画。7脚の椅子を設けるダイニングテーブルと組み合わせるための間取りを確保する必要があった。

3. →近年の断熱性能基準に合わせるためには、内装を全て剥がし、断熱を強化する必要があり、建物の基本構造から手直しする必要が生じた。

4. →明るさと同時に、玄関の広さを確保する事が望まれた。

5. →上記の内容を加味してリフォームを行うと工事金額が新築とあまり変わらなかった

さらに今回は、敷地にゆとりがあり、建替えではなかった事も新築を選ばれた大きな要素の一つといえるでしょう。工事中も仮住まいを確保する必要も無く、新築部分の引渡しが完了した後に、引越のための梱包なども最小限に抑えながらマイペースで少しずつ家財道具を移し、最終的には現在のお宅を取り壊せば良いといった流れは、毎日の生活に大きな負担が掛からない事も、新築を行う上でのハードルを下げた様に思われます。

建替えを行った場合の進行フロー

■大津K-HOUSE=in the Compound= 設計編

00.大津で東京の設計事務所が設計・監理をする-出会う-

01.定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

02.遠隔地で行う家づくり ハウスメーカーと設計事務所の違い

03.近畿地方の家を東京で設計する

04.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法1

05.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法2

■大津K-HOUSE=in the Compound= 現場監理編

00.地鎮祭_大津K-HOUSE=in the Compound=

01.祠ありきの建物位置:縄張り

02.建物を支える地盤を考える

03.基礎工事の工程:掘削工事

04.基礎工事の工程:鉄筋工事

05.基礎工事の工程:打設工事

傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

前回に引続きK-HOUSE=in the Forest=という長野県に建つセカンドハウスです。傾斜地に木造平屋を建てるために、その下のRC造をどのように作ったのかをご説明致しましょう。

コンクリート打設直後の様子 手前が地下室の屋根部分で奥に擁壁裏面が見える この後、型枠脱型後に土を埋め戻す

谷側からの外観で、木造平屋下のコンクリート壁は横長のファサードを構成していますが、壁の裏側は異なった使われ方をしています。

3種類の色分けをしましたが、地下室部分は必要最小限の大きさとし、その他は基本的には基礎と擁壁になります。木造住居部分より左側に伸びている擁壁部分は、平坦な屋外空間を作るための物ですが、それ以外に「土量のバランスを取る」ための壁でもあります。傾斜地に関しては、敷地内の土を何らかの形で掘削したり盛ったりといった、土の移動を伴うケースが多くなります。これは、建物内部で平らな床を作るためにおこる事で、内部の床を傾斜に合わせてなるべく土の移動を少なくする事は、工事コストを削減する上で有効な方法になります。この土を多く掘削し、敷地外に搬出しなければならない場合は、さらに処分費用が掛かる事になります。

建物を連続で輪切りにした断面 図中の紫色が掘削した土で、水色が埋め戻しに利用した土

今回は、この場外処分しなければならない土を最小限に抑えるために、地下室を作るために掘削した土を、擁壁の背後に埋め戻し、建物の基礎部分と平坦な庭部分に利用しました。

傾斜に馴染む様な外部階段も作り、敷地の起伏に寄り添う、地に根ざした外部空間ができたのではないかと思います。

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=

前回の「傾斜地でも平屋の暮らしを」の中で、傾斜地に平屋を建てる上で、考慮しなければならないポイントを挙げました。実際の設計で建物と地面の関係に折合いをつけるのは、平屋に限った事ではありません。今回、ご紹介するのはK-HOUSE=in the Forest=という長野県に建つセカンドハウスです。地上の住居部分は木造平屋で、その下にRC造半地下の車庫があるお宅になります。

上のCGは斜面の谷側から見た外観になります。緑色の外壁部分が木造の住居になり、その下にRC造の車庫があります(焦げ茶部分が車庫入口です)。玄関はこの外観の反対側になり、斜面の山側になります。

玄関へのアプローチ 写真左側が斜面の山側になる

こちらが住居部分の平面図になります。図面の下が斜面の山側で、上が谷側です。アプローチは斜面の山側を利用しています。

半地下の車庫は住居部分の概ね半分の面積になります(図中の水色の範囲がそれぞれの大きさになります)。図中の右側に地下室は無く、土の上に基礎を作る通常の木造と同じ作り方をしています。紫色に塗られた部分は、車庫の壁であるのと同時に、住居部分下では基礎に、それ以外の部分では擁壁になっています。これは、住居部分下の空間を有効に使うためと、住居部分の右側に土を盛り、平坦な地面を設けるための仕組みです。これにより、住居部分と地面の関係が、より近くなり、平屋としての佇まいを確保する事ができました。

擁壁と土盛りによってつくられた平場 枕木を敷いた屋外スペースになっている

次回は、ここでの工事内容をもう少し掘り下げる事にします。

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

 

内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合

外部空間と積極的な関わりを持つ事ができる平屋ですが、地続きになっている事による敷地及び敷地外との折合いの付け方も重要になります。平屋を建てる上で必要になる敷地の理想的な広さが、敷地周辺との境界線を長くする傾向にあるため、そこをどのようにするかの配慮が必要になります。開口に繋がる外部空間をコントロールできるのは、自分の敷地の中だけになりますので、借景が出来る様な場合は、積極的に境界を見えなくするなども、デザイン上は効果的かもしれません。ただ、プライバシーを確保する観点や防犯上の話からすると、地上階の開口部が多く外部空間との親和性が高い分、外からの接触には弱点を持っているともいえます。

より、高いプライバシーを確保した外部空間をどのように確保するか・・・

一つの答えとして、以前に検討を行った中庭を内包した平屋をご紹介します。

大通りの喧噪から少し距離をおいた敷地は、市街化調整区域の中にあり、農耕地も多く残る良好な環境でした。南と東には遮るものがなく、陽光がたっぷりと注ぐ、水平の広がりを持った希有な条件を備えています。敷地北側は新たに開発された宅地となり、新しく家が建ち始めました。木更津市も農地を残しながら、宅地開発を行う方向性を打ち出しており、今後も新たな住宅が増えて行く傾向にありますが、ゆとりを持った市街化が進むと思われ、良好な環境は担保される可能性が高いです。計画道路が敷設された折には、周辺環境の変化が見られるかもしれませんが、緑の多い風景はこれからも続くと思われます。

当初のご提案では、この様な敷地の持つ田園風景を室内から眺めるご提案をしましたが、防犯やプライバシーの確保をお望みという事で、中庭を設け、内側の開口を多く取る計画を行いました。以下がその時のコンセプトイメージになりますが、建物外周部は壁を多めに設定し、家の中心となる中庭に周りを諸室が取り囲む配置計画です。

居間、ダイングキッチンと家族が集まる諸室は中庭に向って、開き、よりプライベート性の高まる部屋は、その奥に配置しています。各部屋の間に細い抜けを設け、外部との繋がりは確保しつつ、あくまでも中庭は内向きに作るといったご提案でした。

中庭を介する事で、回廊ができ、親子の個室にも適度な距離感が生まれたのは副産物といえるかもしれません。また、水廻りもコンパクトにまとめる事ができ家事動線にも使い易さが、居間と一体利用も可能な和室は奥に配置されているため、家全体の中でも独立性を高める事ができたと思います。

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

 

 

平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い

平屋の特徴の一つである「地に根ざした建築」は建屋と外部空間の関係を積極的に作り込む事でさらに魅力が増します。平屋の良さを活かすためには、外部空間を効果的に設ける事が少なからず必要と思われます。そのためには少しでも建蔽率、容積率にゆとりがある敷地に建てる事が、平屋づくりを成功させる鍵の一つといえるでしょう。

■地面と建屋の連続感

居室(リビング、ダイニング、寝室など)は採光、換気のために家の外周部に配置される事が一般的です。平坦な地盤であれば、建屋の外周全てが外部空間と接している事になります。地面と室内の床面が近い平屋は、各部屋で外部空間との繋がりを持つ事が望めます。

■外部空間と建屋を効果的につなぐ開口部

建屋の周りに外部空間を設け、室内からもそれを楽しむためには開口部が必要です。外部と内部がより効果的な関わり合いになる様な、開口部の取り方が大切になってきます。外部空間との関係をいかに建物で表現するか、和風建築は我々に多くのインスピレーションを与えてくれます。

・内部と外部の連続感を強調する様な開口

・風景の一部を切り取る額縁の様な開口

・方角によって大きさ形状を使い分ける開口

・強い光を入れる開口、弱い光を入れる開口

・スクリーン(格子,障子など)を設けた開口

四季折々の自然を身近に感じていた我々日本人に染込んでいる感性を大いに刺激してくれますね。

■床の連続感

内部と外部の連続感を強調する大きな開口を設けたとします。この効果を高める重要な要素として、床の連続感があります。室内から外部の風景を眺める時に、床が段差なく開口の外まで繋がっている事で、移動するという物理的な連続性もさる事ながら、移動できそうだと感じさせる事が、連続感を生み出す要因になります。

M-HOUSE=INSIDE AND OUTSIDE= ダイニングキッチンから屋外デッキ、プールに繋がる開口

■軒の出が生む内外の曖昧さ

屋根で覆われている事は、建物の下にいるといった感覚が生まれるのですが、その軒の出の長さと高さの関係は重要です。長さが高さより勝っている程,より内部にいるといった意識を強く感じさせる効果があります。外部であるのに内部的と感じる事が,内外の曖昧さを生み、内部空間と外部空間の一体感をより増す事になります。

M-HOUSE=INSIDE AND OUTSIDE= 矩計図 軒の長さと高さは概ね1対1で作られています

■屋根高さを抑える事による効果

平屋は建屋が1層で完結しているため、壁面の高さが低く、自ずと軒先の高さも抑えられます。これは外部から建物をみた時に、その大きさがコンパクトに感じられ、より身近なスケール感を得る事ができるでしょう。庭の植栽や樹木の高さと建物が呼応する様な関係が生まれ、より「地に根ざした建築」に近づく事が出来るのです。

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係

平屋を持つには、それなりの敷地の広さが必要な事を前回の「平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル」の中でご説明しました。では、敷地は具体的にどれくらいの広さが必要なのでしょうか。

今回取り上げるのは、以前に弊社で設計した栃木県芳賀町に新築した戸建住宅M-HOUSE =INSIDE AND OUTSIDE= です。簡単な概要は以下のとおりです。

敷地面積:331.07㎡(敷地全体:1029.2㎡)

延床面積:119.25㎡

法定建蔽率:60%

法定容積率:200%

家族構成:夫婦、子供1人

平屋PLAN

 

間取りは、リビングキッチンと個室が2室、水廻りと玄関、収納で構成されています。これら全ての合計面積が、上記の延床面積:119.25㎡になります。一般的な夫婦と子供の3人暮らしとしては、少し広めといえるかもしれません。

これを2階建てにした場合、どのようになるでしょうか。必要な諸室、機能は変えずに、それぞれの面積も可能な限り踏襲した間取りが以下になります。

2階建PLAN

 

1階に玄関、寝室、水廻り、2階にリビング、ダイニング、キッチンと振分け、玄関に階段室を接続させました。上図により建築面積は78.17㎡、延床面積は145.33㎡ になりました。

建物側から求められる必要敷地面積としては、建築面積を建蔽率で割る事で算出してみます。※平屋の場合は延床面積=建築面積として計算します

平屋:119.25㎡÷0.6=198.75㎡ 延床面積(=建築面積)÷建蔽率(60%)

2階: 78.17㎡÷0.6=130.28㎡ 建築面積÷建蔽率(60%)

198.75㎡÷130.28㎡=1.53倍  平屋必要敷地面積÷2階建必要面積

単純な面積比較になってしまいますが、同等の機能を持たせた住宅の場合、平屋は、2階建てより、敷地面積として概ね1.5倍から2倍弱の広さが必要になると思われます。

 

因に、延床面積の比較ではどうなるでしょうか。

119.25÷145.33㎡=0.82倍  平屋延床面積÷2階建延床面積

平屋の場合、階段などが不要なため、概ね2割程度の面積削減が可能といえます。この削減分による建物側の減額効果はどれくらいでしょうか。仮に建物の工事単価を250,000円/㎡(=約80万円/坪)とすると、削減面積ー25㎡による机上の減額効果は600万円、実際には平屋の施工単価が高い事を考慮しても、500万円前後の減額は見込めると予想されます。これを、必要敷地面積の差分の+70㎡で割ると

5,000,000円÷70㎡ = 71,428円/㎡

約7万円/㎡の土地価格であれば、バランスする事になります。都内の平均坪単価は80万円前後といわれています。都心から離れる事で坪単価は下がってゆくので、どの辺りのエリアを選ぶかで平屋実現の可能性は出て来ると思われます。

=参考=

2016年の土地価格相場

[東京都]青梅市 :10万7400円/㎡

[東京都]日の出市:7万7680円/㎡

[神奈川県]箱根町:7万8016円/㎡

[神奈川県]真鶴町:6万7142円/㎡

[埼玉県]鴻巣市 :7万0752円/㎡

[千葉県]四街道市:6万4635円/㎡

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

「都市でも気持ちよく住まう家 by有限会社 菰田建築設計事務所」来訪記

建築家31会のメンバー、有限会社 菰田建築設計事務所さんの手掛けられた「都市でも気持ちよく住まう家」のオープンハウスにお邪魔して来ました。

ご夫婦で手掛けられる菰田さんの建築は写真や模型では拝見しており、丁寧な作り込みには感心しておりましたが、実際の建物を体験するのは初めてだったので、期待に胸を踊らせて伺いました。

敷地は三軒茶屋の交差点からほど近い所で、国道246号線沿いのビル群を背景にした細い路地が続く住宅街の中にありました。大通りが直ぐ近くなのですが、通り沿いのビル群が屏風の様に建ち並んでいるおかげで、通りの喧騒はあまり届いてこず、思いがけない程の静けさがありました。

白と自然木を基調とした外観は飾り気を排したシンプルな潔さでまとめられています。外回りをうろうろと拝見していると、菰田さんが玄関先で出迎えてくれました。

路地をくぐる様にして玄関扉を抜けて繋がるシューズクローゼット周りを土足のまま進むと、天井が高くなり、側壁の開口から取られた柔らかい明るさを持った広がりのある土間空間に変化します。この土間が1階を端から端まで貫き、そこに直接面した形で子供部屋がありました。土間と部屋の間には壁や扉が無く、腰掛けの高さに設定された床段差が縁側的なイメージも与えます。まだお子さんが小さいため、あえて間仕切り壁などは設けず、将来的には分割を行なえる様なフレキシブルな平面形状と、設備の増設に対応した仕込みは行われているという、練り上げられた空間でした。小学校に上がる頃には、友達がたくさん集まっても大丈夫であろう広がりのあるワンフロアの遊び場が想像できました。

階段を登った2階はリビング、キッチンがある生活の中心フロアです。

大きく取られた開口から入る光と、間仕切りを極力排した間取りにより、室内の広さが感じられます。登ってきた階段を振り返ると、3階への階段は壁からスチールの支柱で支えられた、軽やかな踏み板が壁から跳ね出しています。部材の細さが軽さをさらに強調しており、上から落ちて来る光と絡み回転しながら上昇感を生んでいました。構造的には階段外周の壁内部に段板の支持部材が埋め込まれ隠さており、壁からは細い部材のみが取り付いており軽やかさが強調されています。菰田さん渾身のディテールでしょう。

内装は白色と木目がバランス良く配され、大きな開口から光の入る明るい生成りの空間でした。

その一角に2畳に満たないひときわコンパクトは暗がりのスペースがありました。これは篭り部屋で、明るさを抑えた小さな空間で、壁に囲まれた床全面に青を基調とした柄のクッションが敷き詰めらていました。

青いクッションと壁の篭り部屋 当初「子守り」部屋と記述しておりましたが、ご本人から「篭り」とのコメント頂きました(!)大変失礼致しました・・・。

これはお客様のアイデアを元に作られたそうで、クッションの柄もご自身で選ばれたそうです。その色柄に呼応する様に壁も青色に塗られた空間は、何とも落ち着ける「囲まれ感」がありました。空間は比較的明るさを考慮する事が多い中、あえて暗がりを作る所に、新鮮さとセンスの良さを感じました。

キッチンの背面に据え付けられた造作家具はオープンな収納になっていました。ここに一つずつお気に入りの食器や小物が並んでゆく事で、さらに素敵な家ができ上がる事が想像できる、住み手に寄り添った素敵なお宅でした。

平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル

とても魅力的な平屋の暮らしも、その良さを享受できる家を持つとなると、少し難易度が上がります。

■敷地の広さ

全ての機能がワンフロアで納まるという事は、裏を返せばそれだけ広い敷地が必要になるという事です。間取り上、階段、2階の廊下、水周りなどが削減できますが、同程度の部屋数を確保するとなると、2階建ての敷地の2倍弱の広さが求められます。これを都心で行うとなると、元々広い土地をお持ちの方や、結構な資金力が必要になります。そもそも、広い敷地を見つける事が難しいといえるでしょう。この条件は、都心を離れれば、少し可能性が見えて来るかもしれません。

■建築コスト

敷地問題がクリアできたとして、次は建屋本体でクリアしなければならないのが建築コストです。先程,間取り上で削減できる階段や、2階部分の廊下、水廻りといった項目を上げました。建物の延床面積が削減できる事は、平屋の場合は建築面積、ひいては「基礎」「屋根」といった建物の外側を構成する部位を減らす事ができるため、コスト削減の効果はあります。それでも、2階建てに比べて倍近い建築面積になる事は避けられず、コストアップに繋がります。また、上記に伴い、外壁の周長が長くなるため、外壁面積が増え,こちらもコストアップの要因になります。

■間取り上の注意点

地面に近い所で暮らすという事は、外部からのアクセスも行えるという事で、防犯上の留意点が増える事に繋がります。また、家族の距離が近い分、プライバシーや騒音対策を十分に配慮した計画が求められるでしょう。

 

といった具合に、多層階の建築とは異なった与条件があり、特に土地に絡む条件を解決しなければならないため、都心では物理的に平屋を諦めざるを得ないといった事がおきているといえます。それでも、ある程度の広さの敷地で平屋を持つとなったら、江戸時代の長屋暮らしの様な「多目的に部屋を使う」「物を持たない」といった、生活スタイルの発想転換が必要なのかもしれません。

 

次回は、具体的な平屋の事例を元に部位別に細かな検証を行ってみます。

豪農の家

 

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=