K-HOUSE

近畿地方の家を東京で設計する

この投稿は建築家31会のブログリレー「ばとろぐ_2017/03/23」を一部加筆したものです。

設計に取り掛かるにあたり、お客様のご希望を伺う事は全ての始まりになります。今回ご縁を頂いた大津のお客様は、自由が丘の模型展でお知り合いになった事は既にお伝え致しました。イベントでは数組の建築家が模型と写真を持ち寄って、どのような仕事を行ってきたかのご説明も行っているのですが、この時に持参した「中庭」のある案件の模型にご興味を持って頂いた事が、直接お声掛けを頂くきっかけとなりました。家づくりを行う上でのご要望は、前々回のバトログ「定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか」で書かせて頂きましたが、建物計画上の主なご希望は以下のとおりでした。

  1. 建物は木造2階建て
  2. 中庭を取り囲む様に部屋を配置したい
  3. 2階にリビング、キッチン、ダイニング、水廻り、寝室を設ける
  4. 1階に和室、子供部屋、車庫(2台駐車)

特に2階には日常的に使う機能をまとめ、上下移動を少なくしたワンフロアでの生活を望まれていました。これらのご要望を頂くのと併せて、実際に敷地を拝見させて頂く機会を持ち、どのように計画に盛込むかを模索する事になります。敷地周辺のフィールドワークは、2013年のバトログ「原風景に想うこと3」でも書かせて頂きましたので、併せてご覧頂けますと幸いです。

敷地は間口がより奥行が深い町屋独特の地形で、現在のお宅は、前面道路に面して建っており、母屋を挟んだ反対側に庭がありました。この庭部分に新居を計画します。ご要望の2台分の車庫(並列駐車)を道路側に設ける事により、建物の間口方向の幅はある程度、定まって来る事になりました。これに中庭、母屋、さらに奥庭を並べてゆき側面にアプローチの通路で繋げる事で、空間構成も町屋をイメージさせるものとなりました。2階は中庭を囲む様にリビング、ダイニングを配し、来客の見込まれるキッチン周りは、道路側に広めのテラスを設け、2面からの採光が望める明るい空間としました。よりプライベート性の高い寝室と水廻りは奥庭に面しています。

  • 所在地:滋賀県大津市
  • 構 造:木造在来工法地上2階
  • 用 途:専用住宅

■大津K-HOUSE=in the Compound= 設計編

00.大津で東京の設計事務所が設計・監理をする-出会う-

01.定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

02.遠隔地で行う家づくり ハウスメーカーと設計事務所の違い

03.近畿地方の家を東京で設計する

04.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法1

05.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法2

■大津K-HOUSE=in the Compound= 現場監理編

00.地鎮祭_大津K-HOUSE=in the Compound=

01.祠ありきの建物位置:縄張り

02.建物を支える地盤を考える

03.基礎工事の工程:掘削工事

04.基礎工事の工程:鉄筋工事

05.基礎工事の工程:打設工事

遠隔地で行う家づくり ハウスメーカー、工務店と設計事務所の違い

この投稿は建築家31会のブログリレー「ばとろぐ_2017/03/22」を一部加筆したものです。

家づくりをスタートされる時に、どこに仕事を依頼するかの選択肢が幾つかある事は皆様も既にご存知かもしれません。我々の様な設計事務所に仕事を依頼する以外にも、ハウスメーカーや工務店、建設会社に設計から依頼される方は多いと思います。

今回のテーマである現在の居住地と施工計画地が離れている場合、上記の選択肢である、ハウスメーカー、工務店、建設会社に仕事を依頼した場合、どのような進み方をするでしょうか。

全国区をカバーする大手ハウスメーカーは、各地に営業所を持ち、設計・施工とも、どの場所、地域においても対応が可能でしょう。例えば、東京で打合せを行い、施工段階では敷地最寄りの施工チームが受け持つ様なイメージになります。間取りや仕様に関しても,メーカー独自のルールが定まっているため、一定水準を保った住宅ができ上がる事は間違いありません。ただし、共通ルールが多い分、選択肢の自由度は制限される事にはなります。

工務店、建設会社の場合は、地域に根ざした仕事を行っている事が多いため、計画敷地へ工事に出向く事が出来る距離感が重要になります。打合せにも、ある程度の移動条件が加わる可能性があります。また、設計より施工を重視する傾向にあります。設計段階での打合せは移動距離を伴う可能性が高く、その心構えが必要になるでしょう。

今回の大津での計画では、打合せの窓口を担って下さった旦那様に合わせて、東京で設計段階での物事が決まってゆきました。設計事務所ならではの提案力とお施主様のご希望を柔軟に、多く盛込む事ができるという事は大きなメリットといえるでしょう。設計事務所は基本的には施工ができないため、工事に関しては地元の施工者にお願いする事になります。工事段階においては、お施主様の代わりに専門的な目で施工会社の仕事ぶりを確認、指導する事ができ、より良い住宅を作る一助になります。

ただ、この様に設計事務所に依頼する事はメリットばかりではありません。まず、契約に関しては、設計契約と工事契約をそれぞれ結んで頂く必要があり、ワンストップで全ての契約が完了する設計・施工のハウスメーカーや工務店より手間が掛かります。下図は当初の工程表になります。流れとしては、設計契約を結んだ後に、設計を進め、図面が揃った段階で、施工者に見積を行い、金額が折り合った後に、工事契約となります。設計段階では、目標予算を元に進めて行きますが、施工者に見積を取る段階まで、正確な金額が判らないと行った事になります。この辺りのご予算と設計内容の齟齬を防ぐため、我々は設計途中に概算見積りを取る事を行います。下図の赤文字の通り、概算見積りを行った後に、設計内容の見直しを行ってから実施設計を行い、本見積りへと進みました。

今回のケースでは慎重に事を進めたのですが、実際には知り合いが殆ど不在の関西での初仕事であった事もあり、少なからず困難が待ち受けておりました・・・。

■大津K-HOUSE=in the Compound= 設計編

00.大津で東京の設計事務所が設計・監理をする-出会う-

01.定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

02.遠隔地で行う家づくり ハウスメーカーと設計事務所の違い

03.近畿地方の家を東京で設計する

04.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法1

05.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法2

■大津K-HOUSE=in the Compound= 現場監理編

00.地鎮祭_大津K-HOUSE=in the Compound=

01.祠ありきの建物位置:縄張り

02.建物を支える地盤を考える

03.基礎工事の工程:掘削工事

04.基礎工事の工程:鉄筋工事

05.基礎工事の工程:打設工事

定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

この投稿は建築家31会のブログリレー「ばとろぐ_2017/03/21」を一部加筆したものです。

ブログを書いている本日は2017年の3月ですので、お施主様とお会いしてから既に4年近くが経とうとしています。実は紆余曲折がありまして、来週末に地鎮祭を行うという、まさに現在進行形のお宅になります。前回シリーズのバトログでご紹介した[PLUS自由が丘]も「建築家サロンin自由が丘」の会場のご近隣にお住まいになられているお客様からご縁を頂きましたが、今回ご紹介する[K-HOUSE=in the Compound=]も、ご自宅から駅までの通りすがりに、たまたま模型展をご覧になられた事から始まっています。

概ね40年前にご自宅を大津に建てられ、現在は旦那様が単身赴任で東京にお住まいになり、週末に帰省されております。数年後に控えた定年退職と、お二人のお嬢様がご結婚を機にご自宅から出られるなど、生活を取り巻く環境の変化に合わせて、住まい方を見なおすタイミングが訪れていました。お話しを頂いた当初は現在のお住まいにフルリフォームを掛けるか、新たに一戸建てを建てるかで比較検討をされておりました。その中で実現されたいポイントは概ね以下になります。

1. 部屋数や収納量などをこれからの生活スタイルに合わせたい

2. お料理の好きな奥様が快適に使えるキッチンをつくりたい(お料理教室も行いたい)

3. 断熱性能を上げたい

4. 特に玄関を明るくしたい

5. 工事金額は抑えたい

上記のご希望に対して、フルリフォームと新築のメリット・デメリットを比較し、最終的には以下のポイントで新築される事を選択されました。

1. →リビング、ダイニング、キッチンを一体にした、広めの一室をご希望になり、構造フレームの制約のあるリフォームでは理想的な空間を得るのが難しかった。生活を主に2階フロアで完結したいといったご要望もあり水廻りを現在の1階から移動する必要があった。

2. →収納量を増やすと共に、お料理教室での使用を見越した対面式キッチンを計画。7脚の椅子を設けるダイニングテーブルと組み合わせるための間取りを確保する必要があった。

3. →近年の断熱性能基準に合わせるためには、内装を全て剥がし、断熱を強化する必要があり、建物の基本構造から手直しする必要が生じた。

4. →明るさと同時に、玄関の広さを確保する事が望まれた。

5. →上記の内容を加味してリフォームを行うと工事金額が新築とあまり変わらなかった

さらに今回は、敷地にゆとりがあり、建替えではなかった事も新築を選ばれた大きな要素の一つといえるでしょう。工事中も仮住まいを確保する必要も無く、新築部分の引渡しが完了した後に、引越のための梱包なども最小限に抑えながらマイペースで少しずつ家財道具を移し、最終的には現在のお宅を取り壊せば良いといった流れは、毎日の生活に大きな負担が掛からない事も、新築を行う上でのハードルを下げた様に思われます。

建替えを行った場合の進行フロー

■大津K-HOUSE=in the Compound= 設計編

00.大津で東京の設計事務所が設計・監理をする-出会う-

01.定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

02.遠隔地で行う家づくり ハウスメーカーと設計事務所の違い

03.近畿地方の家を東京で設計する

04.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法1

05.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法2

■大津K-HOUSE=in the Compound= 現場監理編

00.地鎮祭_大津K-HOUSE=in the Compound=

01.祠ありきの建物位置:縄張り

02.建物を支える地盤を考える

03.基礎工事の工程:掘削工事

04.基礎工事の工程:鉄筋工事

05.基礎工事の工程:打設工事

大津で東京の設計事務所が設計・監理をする-出会う-

この投稿は建築家31会のブログリレー「ばとろぐ_2017/03/20」を一部加筆したものです。

今週のばとろぐを担当する石川利治です。今回は2013年4月に行った建築家31人会の分科会「建築家サロンin自由が丘vol.2」でお知り合いになったお客様と進めております[K-HOUSE=in the Compound=]という戸建住宅のお話を中心に進めて行きたいと思います。1週間、宜しくお願い致します。

さて、テーマに掲げました“東京の設計事務所”とはどういったものでしょうか?これは”東京”を”首都圏”と置き換えて頂いても構いません。事業所を首都圏に構えている場合、多くの場合は関東近隣までの範囲で仕事をする事が多くなります。これは首都圏にいらっしゃるお客様からご依頼を受けるケースが多いため、建物を計画する敷地に関してもそこから大きく離れる事はあまり無いためです。人口が多く集まっている首都圏には、それだけ多くの設計事務所が存在しています。

それでは、今のお住まいと離れた場所に計画地がある場合はどうでしょう。故郷の土地に家を建てるケース、別荘やセカンドハウスを計画されるケース、場合によっては今後の赴任地が変わる事もあるでしょう。この時に、設計者は現在のお住まいに近いのと、計画敷地に近いのではどちらが良いのでしょうか?

個人的には、前者をお薦めしたいと思います。それは、理想の住まいを持ちたいとお考えの場合、設計段階でより多くの打合せ時間を割いて頂く必要があるからです。この打合せを行うための移動がおっくうにならない距離感も大切な要素と考えるからです。

これが工事に入った時にはどうでしょうか。ご自身が工事状況を把握されるが難しくても、設計者(監理者)は定期的に現場に通い、プロの視点でより良い建物になる様に目を配る事ができ、その状況をご報告する事ができます。もちろん、現場に近い設計者でも同じ事は可能です。

では、東京の設計事務所に仕事を依頼するメリットはそれだけでしょうか?

首都圏の多くの設計事務所はそれぞれが連携をしており、情報交換を行いながら家づくりを行っています。より深い専門的な知識や新しい技術の情報収集や交換、さらには、それを実現した実例を実際に見る事ができるオープンハウスや展示会など、日常業務の中で研鑽を行っている仲間が多くおり、より良い家づくりに活かしているといえます。ネット上では得る事のできない生の情報を持っているのです。

手前味噌ではありますが、そういった仲間が多く集まる建築家31会は、より良い家づくりのお手伝いするために、とても意味のある活動と感じている次第です。そんな我々が、積極的にお客様との出会いの機会を持つための模型展や相談会、HP、FACEBOOKなど、お気軽にご利用して頂ければ幸いです。

■大津K-HOUSE=in the Compound= 設計編

00.大津で東京の設計事務所が設計・監理をする-出会う-

01.定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

02.遠隔地で行う家づくり ハウスメーカーと設計事務所の違い

03.近畿地方の家を東京で設計する

04.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法1

05.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法2

■大津K-HOUSE=in the Compound= 現場監理編

00.地鎮祭_大津K-HOUSE=in the Compound=

01.祠ありきの建物位置:縄張り

02.建物を支える地盤を考える

03.基礎工事の工程:掘削工事

04.基礎工事の工程:鉄筋工事

05.基礎工事の工程:打設工事

傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

前回に引続きK-HOUSE=in the Forest=という長野県に建つセカンドハウスです。傾斜地に木造平屋を建てるために、その下のRC造をどのように作ったのかをご説明致しましょう。

コンクリート打設直後の様子 手前が地下室の屋根部分で奥に擁壁裏面が見える この後、型枠脱型後に土を埋め戻す

谷側からの外観で、木造平屋下のコンクリート壁は横長のファサードを構成していますが、壁の裏側は異なった使われ方をしています。

3種類の色分けをしましたが、地下室部分は必要最小限の大きさとし、その他は基本的には基礎と擁壁になります。木造住居部分より左側に伸びている擁壁部分は、平坦な屋外空間を作るための物ですが、それ以外に「土量のバランスを取る」ための壁でもあります。傾斜地に関しては、敷地内の土を何らかの形で掘削したり盛ったりといった、土の移動を伴うケースが多くなります。これは、建物内部で平らな床を作るためにおこる事で、内部の床を傾斜に合わせてなるべく土の移動を少なくする事は、工事コストを削減する上で有効な方法になります。この土を多く掘削し、敷地外に搬出しなければならない場合は、さらに処分費用が掛かる事になります。

建物を連続で輪切りにした断面 図中の紫色が掘削した土で、水色が埋め戻しに利用した土

今回は、この場外処分しなければならない土を最小限に抑えるために、地下室を作るために掘削した土を、擁壁の背後に埋め戻し、建物の基礎部分と平坦な庭部分に利用しました。

傾斜に馴染む様な外部階段も作り、敷地の起伏に寄り添う、地に根ざした外部空間ができたのではないかと思います。

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=

前回の「傾斜地でも平屋の暮らしを」の中で、傾斜地に平屋を建てる上で、考慮しなければならないポイントを挙げました。実際の設計で建物と地面の関係に折合いをつけるのは、平屋に限った事ではありません。今回、ご紹介するのはK-HOUSE=in the Forest=という長野県に建つセカンドハウスです。地上の住居部分は木造平屋で、その下にRC造半地下の車庫があるお宅になります。

上のCGは斜面の谷側から見た外観になります。緑色の外壁部分が木造の住居になり、その下にRC造の車庫があります(焦げ茶部分が車庫入口です)。玄関はこの外観の反対側になり、斜面の山側になります。

玄関へのアプローチ 写真左側が斜面の山側になる

こちらが住居部分の平面図になります。図面の下が斜面の山側で、上が谷側です。アプローチは斜面の山側を利用しています。

半地下の車庫は住居部分の概ね半分の面積になります(図中の水色の範囲がそれぞれの大きさになります)。図中の右側に地下室は無く、土の上に基礎を作る通常の木造と同じ作り方をしています。紫色に塗られた部分は、車庫の壁であるのと同時に、住居部分下では基礎に、それ以外の部分では擁壁になっています。これは、住居部分下の空間を有効に使うためと、住居部分の右側に土を盛り、平坦な地面を設けるための仕組みです。これにより、住居部分と地面の関係が、より近くなり、平屋としての佇まいを確保する事ができました。

擁壁と土盛りによってつくられた平場 枕木を敷いた屋外スペースになっている

次回は、ここでの工事内容をもう少し掘り下げる事にします。

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

 

傾斜地でも平屋の暮らしを

ここまで平屋の魅力を、敷地との関係性を交えて探って来ました。「地に根ざす」という事をイメージした時、何となく平坦な地形を思い浮かべるのではないでしょうか。

ここで,改めて、「平屋の魅力を考える」で述べた優れた点を確認してみましょう。

  • 地に根ざした暮らしが臨める
  • 水平移動で完結できる(上下移動がない)
  • 家族のコミュニケーションが図り易い
  • 構造が堅牢になる
  • 部屋の大きさに自由度が高い

果たしてこれらは平坦な土地でしか成り立たず、傾斜地では難しいのでしょうか?この中で特に相違点が生まれるのは「地に根ざした暮らしが臨める」といった項目でしょう。敷地が傾斜している事を考えると,建物の外周全てで地面と連続させるのは難しいかもしれません。ワンフロアで日常生活が完結していることからすれば「平屋の暮らしを行っている」と拡大解釈をお許し頂くとの前提で、以下に傾斜地と建物の取合いを簡単な概念図で表します。

 

A案の傾斜地に平屋を載せるイメージであれば、建物の下(基礎部分)を地面から持ち上げる柱、梁といった構造フレームが必要になります。イラストの建物左側は入口などをイメージしていますが地面との接続を行います。こちら側に関しては、建物と敷地の連続感は生まれる可能性はあります。傾斜の低い側に関しては、建物が地面から浮いている様な状態になるため、使い勝手には制限が加わり、デットスペースになってしまう事も考えられます。

上記は建物と地面の接続が傾斜地の高い側でしたが、これは低い側で行う事も考えられます。B案は、大半が地面の中に埋まる事になるため、半地下といったイメージに近くなってきます。建物の性能上、土と接する部分は木造と云う訳にはいかず(土の中には水分が多く含まれているため、水に強い材料が求められます)多くの場合は鉄筋コンクリート(以下RC)造となります。また、地中に埋める事による土の掘削とその残土処分にもコストが掛かる事になります。

A案、B案のいずれにしても、敷地が傾斜している事により、建物を作る上での何らかのコストアップは避けられない傾向にはあります。平坦な敷地に比べ設計においても立体的な検討事項が増えるため、住宅メーカーさんは敬遠しがちになり、設計事務所の得意分野ともいれるでしょう。この事が、土地の資産価値を下げる事にも繋がっており、土地価格からすると、安価に設定されているケースが多く有ります。建物のコストアップを敷地のコストダウンでカバーすると云うことも考えられるでしょう。

次回は、安価に入手した傾斜地に、ワンフロアの生活空間を設けた過去の実例を取り上げたいと思います。

 

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合

外部空間と積極的な関わりを持つ事ができる平屋ですが、地続きになっている事による敷地及び敷地外との折合いの付け方も重要になります。平屋を建てる上で必要になる敷地の理想的な広さが、敷地周辺との境界線を長くする傾向にあるため、そこをどのようにするかの配慮が必要になります。開口に繋がる外部空間をコントロールできるのは、自分の敷地の中だけになりますので、借景が出来る様な場合は、積極的に境界を見えなくするなども、デザイン上は効果的かもしれません。ただ、プライバシーを確保する観点や防犯上の話からすると、地上階の開口部が多く外部空間との親和性が高い分、外からの接触には弱点を持っているともいえます。

より、高いプライバシーを確保した外部空間をどのように確保するか・・・

一つの答えとして、以前に検討を行った中庭を内包した平屋をご紹介します。

大通りの喧噪から少し距離をおいた敷地は、市街化調整区域の中にあり、農耕地も多く残る良好な環境でした。南と東には遮るものがなく、陽光がたっぷりと注ぐ、水平の広がりを持った希有な条件を備えています。敷地北側は新たに開発された宅地となり、新しく家が建ち始めました。木更津市も農地を残しながら、宅地開発を行う方向性を打ち出しており、今後も新たな住宅が増えて行く傾向にありますが、ゆとりを持った市街化が進むと思われ、良好な環境は担保される可能性が高いです。計画道路が敷設された折には、周辺環境の変化が見られるかもしれませんが、緑の多い風景はこれからも続くと思われます。

当初のご提案では、この様な敷地の持つ田園風景を室内から眺めるご提案をしましたが、防犯やプライバシーの確保をお望みという事で、中庭を設け、内側の開口を多く取る計画を行いました。以下がその時のコンセプトイメージになりますが、建物外周部は壁を多めに設定し、家の中心となる中庭に周りを諸室が取り囲む配置計画です。

居間、ダイングキッチンと家族が集まる諸室は中庭に向って、開き、よりプライベート性の高まる部屋は、その奥に配置しています。各部屋の間に細い抜けを設け、外部との繋がりは確保しつつ、あくまでも中庭は内向きに作るといったご提案でした。

中庭を介する事で、回廊ができ、親子の個室にも適度な距離感が生まれたのは副産物といえるかもしれません。また、水廻りもコンパクトにまとめる事ができ家事動線にも使い易さが、居間と一体利用も可能な和室は奥に配置されているため、家全体の中でも独立性を高める事ができたと思います。

  1. 平屋の魅力を考える
  2. 平屋を手に入れる上で越えなければならないハードル
  3. 平屋を建てるのに必要な土地の広さとは 平屋と土地の関係
  4. 平屋の醍醐味 内部と外部の関わり合い
  5. 内に開く平屋 中庭を持った平屋の場合
  6. 傾斜地でも平屋の暮らしを
  7. 傾斜地を活かした平屋暮らし1 K-HOUSE=in the Forest=
  8. 傾斜地を活かした平屋暮らし2 K-HOUSE=in the Forest=

 

 

原風景に想うこと4_千葉県君津市

この投稿は建築家31会のブログリレー「ばとろぐ_2013/08/22」を一部加筆したものです。

人々が集まって住み、人工物を作り、市街化する事は、多かれ少なかれ何かしらの歴史(時間経過の痕跡)が折り重なっている事が想像されます。時間をかけて未開拓の地を開墾し、時代に合わせて築造と解体を繰り返して来たからです。

土木構造物、建造物などが多くひしめき合うに連れ、都市へと変わって行く訳ですが、これらの人工物があまり無い場所は、地形そのものの姿が見えやすい状態にあるといえましょう。

以前に房総半島で計画した住宅K-HOUSE=Spread BELOW=は、映像作家のSOHOでした。小高い丘の頂きに位置する計画地は、すり鉢状に広がる深い緑に覆われた山肌と谷底の池を臨む優れた景観をそなえていました。緩やかな傾斜は東方向の平野に開け、遠くには街並も点在し夜景を彩ります。敷地西側の接続道路の向かいは奇麗に植樹された平坦な果樹園が広がり、アプローチ部分の雰囲気を高めてくれていました。

敷地内には10M前後の高木も茂り、深い緑を形作るとともに、山肌の裾野には竹林が広がり風景にアクセントを与えます。

敷地北側の隣地は低木に覆われ、視界を遮るものがなく雄大な景観を臨む事ができます。接続道路から北東の眼下に広がる風景はアイスポットとなる谷底の池などの特徴的な景観を有し、背景、あるいは借景として建築空間に取り込む事が、今回の計画を行う上でも重要な要素と捉えました。

室内からは、この北東方向の景観を臨む事のできる大きなパノラマウィンドウを設けました。吹抜けに面したこの開口は4M×4Mのサイズになり、建物外観にも印象的な形態をもたらします。接続道路を北側からアプローチして来た時には、深い緑を背景に建物の全容を見る事ができ、その存在感を感じる事ができるでしょう。また、殆どが傾斜地となる今回の敷地は、屋外のまとまった平場がありません。自然に囲まれた生活をする上で、屋外作業を行える場所として、あるいは、来客も含めた充分な広さの駐車スペースとして、そして何より、この景観を満喫する事ができる展望テラスとして、屋上を利用した新たな大地を道路レベルに生み出します。

建物の全体構成は、道路と同じ高さの屋外テラス、駐車場の屋上階レベル、オフィス、カフェ等の土足ゾーンとなる2階レベル、リビング、ダイニング、ベットルーム、水廻り等、生活の中心となる1階レベルの3層になります。敷地の傾斜に沿った形で段状に箱を積み上げる事により、合理的且つ強固な構造体とする事ができます。室内は吹抜けを含んだ一体の空間としてつながっており、通風、換気にも効果的です。各階には小さな段差を絡めながら使う用途による場所性の変化を緩やかに与えます。仕事に関係する来客は2階レベルのカフェを中心に利用します。吹抜けを介して1階のリビングと面する事により、北側の大開口から眼下の池を臨む事が可能です。また東側の大きな壁面はプロジェクターを使った投影を行う事もでき、さながらシアターの様な使い勝手も望めるでしょう。

よりプライベート性の高い寝室、水廻りはカフェの下部へと配置する事により、来客の視線が直接届かない奥まった空間になります。

 

追記2017/05/15:この計画は、コンペ提出案になります。結果は落選だったのですが、提案としてはとても気に入っております。これを実現できる様な機会が訪れると良いのですが・・・。

原風景の想うこと1_赤坂見附

原風景に想うこと2_富山市舟橋

原風景に想うこと3_滋賀県大津市膳所

原風景に想うこと4_千葉県君津市

原風景に想うこと5_港区赤坂高橋是清翁公園

原風景に想うこと3_滋賀県大津市膳所

この投稿は建築家31会のブログリレー「ばとろぐ_2013/08/21」を一部加筆したものです。

先日、模型展にいらしたお客様とご縁があり、琵琶湖の南端に位置する大津の膳所(ぜせ)に行く機会を頂きました。初めて見た琵琶湖は、湖とは思えない広大な水面をたたえていました。この雄大な景色と豊かな自然の恵みは、多くの歴史的資産と文化を育みました。大津・膳所は東海道に栄えた宿場町として、また戦略的な要所として名将が築城に関わるなど、由緒ある歴史に彩られた街です。明治維新以降は近代・現代の暮らしへと移り変わる中で都市化が進むと共に、今もなお城下の風情を感じさせる築造物が散見されます。湖面に浮かぶ様に築かれた膳所城が水と密接な関係を持っていた様に、現代は湖岸沿いの整備が進み、良好な親水空間が生み出されている事はその象徴ともいえます。

今回の計画地は、膳所城下の北端に位置し、かつては番所・札所があった辺りとされます。敷地の西側に流れる相模川は城下町の外曲輪に位置づけられ、現在も堀の面影を残しており、近隣の寺(元膳所藩家老屋敷)は大津方面からの守りの拠点として重要な位置をしめていました。前面道路の旧東海道はこの寺を迂回する様に屈曲しており、特徴的な街道の景観を今に残しています。街道沿いには多くの商家が軒を連ねていたため、間口より奥行が深い町屋独特の地形が多く存在している事の要因と予想されます。

道路境界まで建物が作られる町屋による街並は、街道に建家が直接ひらかれる形態です。これは道路と店先の境界が曖昧なため、外部と内部の連続感が生まれ、来客を促すひとつの空間構成といえます。

現代の暮らしは、モータリゼーションと切り離す事ができません。多くの人々の往来があった旧東海道は、近隣住民の生活道路としての比重が増しました。建家の前面には駐車場が設けられ、道路と敷地は車の出入りを考慮した作りとなり、現代における道路境界の消失が進んでいることを感じました。

追記2017/05/14:おかげ様で文中のK-HOUSE=in the Compound=は現在、工事の真最中です。以下のリンクと併せてご覧頂けますと幸いです。

■大津K-HOUSE=in the Compound= 設計編

00.大津で東京の設計事務所が設計・監理をする-出会う-

01.定年を控えた単身赴任後の家をリフォームするか建替えるか

02.遠隔地で行う家づくり ハウスメーカーと設計事務所の違い

03.近畿地方の家を東京で設計する

04.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法1

05.遠隔地の設計で建設費用を抑える方法2

■大津K-HOUSE=in the Compound= 現場監理編

00.地鎮祭_大津K-HOUSE=in the Compound=

01.祠ありきの建物位置:縄張り

02.建物を支える地盤を考える

03.基礎工事の工程:掘削工事

04.基礎工事の工程:鉄筋工事

05.基礎工事の工程:打設工事

 

原風景の想うこと1_赤坂見附

原風景に想うこと2_富山市舟橋

原風景に想うこと3_滋賀県大津市膳所

原風景に想うこと4_千葉県君津市

原風景に想うこと5_港区赤坂高橋是清翁公園